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システム開発の請負契約と準委任契約の違い

システム開発やIT業務を外部に委託するとき、契約書に「請負」と書くか「準委任」と書くかで、受注者が負う責任や報酬の考え方は大きく変わります。本記事では、民法の条文と2020年施行の改正民法のポイント、そして常駐型の委託で特に注意したい労働者派遣との違い(偽装請負)について、法令と厚生労働省の公表資料をもとに整理します。

請負と準委任は「何を約束するか」が違う

システム開発やIT業務の委託契約は、名称が「業務委託契約」「開発委託契約」などであっても、民法上は主に「請負」と「準委任」のどちらか(または組み合わせ)として扱われます。両者の最大の違いは、受注者が何を約束しているかです。

請負(民法第632条)

民法第632条は、請負を「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約と定めています。システム開発でいえば、合意した仕様どおりのシステムを完成させて引き渡すことが受注者の義務であり、報酬は原則として目的物の引渡しと同時に支払われます(同第633条)。

準委任(民法第656条・第643条)

委任(民法第643条)は「法律行為をすること」を委託する契約で、準委任は、委任の規定を「法律行為でない事務の委託」に準用するものです(同第656条)。システムの設計支援や運用保守、ヘルプデスクなど、IT業務の多くは準委任にあたります。受注者は「委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって」事務を処理する義務(善管注意義務、同第644条)を負いますが、請負のように仕事の完成そのものを約束するわけではありません。

出典:民法(明治二十九年法律第八十九号)(e-Gov法令検索)。本記事の条文番号はすべて同法によります。

2020年の改正民法で何が変わったか

2017年に成立した「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)が、一部の規定を除き2020年4月1日に施行され、請負と準委任に関するルールも見直されました(出典:法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」)。システム開発の契約に関係が深いのは、次の2点です。

1. 「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ

改正前の「瑕疵担保責任」は、改正後は「契約の内容に適合しない」場合の責任(契約不適合責任)として整理されました。請負には売買の規定が準用され(第559条)、注文者は、引き渡されたシステムが契約の内容に適合しない場合に、次のような請求ができます。

  • 履行の追完(修補など)の請求(第562条)
  • 報酬の減額の請求(第563条)
  • 損害賠償の請求・契約の解除(第564条、第415条ほか)

権利行使の期間については、注文者が不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないと、原則としてこれらの請求ができなくなります(第637条)。ただし、注文者が提供した材料や注文者の指図によって生じた不適合については、原則として責任を問えません(第636条)。契約書で検収期間や責任期間を別途定めることも一般的なので、条項の内容を必ず確認しましょう。

2. 成果に対して報酬を支払う準委任の明文化

準委任の報酬は、従来どおり、事務を処理した後に請求するのが原則で、期間で報酬を定めた場合はその期間の経過後に請求できます(第648条第2項)。この形は一般に「履行割合型」と呼ばれます。

これに対し、改正で新設された第648条の2は、事務の履行により得られる「成果」に対して報酬を支払うことを約した場合について定めています。成果が引渡しを要するときは、報酬は成果の引渡しと同時に支払うこととされ、こちらは一般に「成果完成型」と呼ばれます。あくまで準委任であり、報酬の支払いを成果に結びつける形である点で、仕事の完成そのものを義務とする請負とは区別されます。

また、途中で契約が終わった場合の報酬についても整理されました。準委任では、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる場合があり(第648条第3項)、請負や成果完成型の準委任では、既にした仕事のうち可分な部分によって注文者が利益を受けるときは、その利益の割合に応じて報酬を請求できます(第634条、第648条の2第2項)。

請負・準委任の比較

請負と準委任の主な違い
観点請負準委任
約束する内容仕事の完成(第632条)事務の処理。善管注意義務を負う(第644条・第656条)
報酬の考え方仕事の結果に対して支払う(第632条・第633条)履行割合型(第648条)または成果完成型(第648条の2)
成果物の不備契約不適合責任(第559条・第562条ほか)契約不適合責任の規定はなく、善管注意義務違反などが債務不履行として問題になる
途中解除完成前なら注文者はいつでも損害を賠償して解除できる(第641条)各当事者がいつでも解除できる。相手方に不利な時期の解除などは原則として損害賠償が必要(第651条)
向いている業務の例仕様が固まった機能の開発、範囲が明確な移行作業要件定義、改善を続ける開発、運用保守、ヘルプデスク

実務では、仕様を固める要件定義を準委任で行い、仕様が確定した開発工程を請負とするなど、工程ごとに契約形態を使い分けることもよくあります。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開している「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」は、改正民法を踏まえて請負・準委任それぞれの報酬請求権や成果報酬型の準委任の位置づけなどを整理しており、契約書を検討する際の参考になります。

労働者派遣との違いと「偽装請負」

請負や準委任と混同されやすいのが「労働者派遣」です。労働者派遣法第2条第1号は、労働者派遣を、自己の雇用する労働者を「他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」と定義しています(出典:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(e-Gov法令検索))。つまり、発注者が受注者の労働者に直接指揮命令できるかどうかが分かれ目です。請負・準委任では、発注者と受注者側の労働者との間に指揮命令関係は生じません。

契約上は請負や準委任でありながら、実態として発注者が受注者の労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせている状態は、いわゆる「偽装請負」と呼ばれ、労働者派遣法に違反するものとなります。

判断は「契約の名前」ではなく「実態」で行われる

派遣と請負の区分は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、いわゆる37号告示)に基づいて判断されます。告示では、受注者が次のような管理を自ら行い、業務を発注者から独立して処理していることが求められています。

  • 業務の遂行方法に関する指示、業務の遂行に関する評価などの管理
  • 始業・終業の時刻、休憩、休日、残業などの労働時間に関する管理
  • 服務規律に関する指示や、労働者の配置の決定・変更
  • 業務に必要な資金の調達・支弁と、事業主としての法律上の責任
  • 自ら準備する機械・設備等や、自らの企画・専門的な技術・経験による業務の処理

出典:厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(PDF)

厚生労働省の疑義応答集(第3集)は、アジャイル型開発を例に、この基準が委任・準委任にも同様に当てはまり、契約の形式を問わず実態に即して判断されることを示しています。そのうえで、発注者側と受注者側の担当者が対等な関係で情報共有や技術的な助言・提案を行い、受注者側の担当者が自律的に判断して開発を進めているのであれば、会議やチャットツールに双方が参加していても、それだけで偽装請負とはならないとしています。一方で、発注者側から受注者側の担当者に直接、業務の遂行方法や労働時間などを指示すれば、受注者が管理責任者を選任していても偽装請負と判断されることになります。また同集は、これらの考え方がアジャイル型以外のシステム開発にも当てはまるとしています。

出典:厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」/同 第3集(PDF)

常駐型の委託で発注者が気をつけること

エンジニアが発注者の社内で作業する常駐型(オンサイト)の委託では、特に偽装請負に注意が必要です。疑義応答集を踏まえ、発注者側では次の点を意識しておきましょう。

  • 作業の指示や仕様変更の依頼は、受注者の責任者(管理責任者)を通じて行う
  • 受注者の担当者に対して、勤務時間や残業、休暇を直接指示しない
  • 担当者を個人として指名したり、特定の人の就業を拒否したりしない(個人を特定しない「スキルシート」の提出を求めることは、それだけで直ちに偽装請負とはされていません)
  • 開発チーム内での役割・権限と業務の進め方を、事前に受注者と合意しておく
  • 受注者側の作業者が1人だけで管理責任者を兼ねている場合、発注者からの注文が実質的に直接の指揮命令となり、偽装請負と判断されることになる点に注意する(出典:37号告示に関する疑義応答集(PDF))

契約を結ぶ前のチェックポイント

  • 委託する業務が「仕事の完成」か「事務の処理」か。工程ごとに整理できているか
  • 請負の場合、仕様・検収の方法と期間、契約不適合の責任期間が明記されているか
  • 準委任の場合、履行割合型か成果完成型か、報酬の計算方法と報告の方法が明記されているか
  • 途中で解約する場合の報酬と、それまでの成果物の扱いが定められているか
  • 著作権などの権利の帰属、秘密保持、再委託の可否が定められているか
  • 常駐する場合、指示の窓口となる受注者側の責任者が決まっているか

まとめ

  • 請負は「仕事の完成」、準委任は「事務の処理」を約束する契約(第632条・第656条)
  • 2020年の改正民法で、請負には契約不適合責任が整理され、準委任には成果に対して報酬を支払う形(第648条の2)が明文化された
  • 請負・準委任では発注者は受注者の労働者に直接指揮命令できず、区分は契約の名前ではなく実態(37号告示)で判断される
  • 常駐型では、指示は受注者の責任者を通し、勤務時間や人選に直接関与しない

コエラーン・テクノロジー(Koelearn Technology)のIT業務委託やエンジニア常駐(オンサイト)は、請負または準委任による業務委託としてお受けしており、作業の指示は当社の責任者を通じて行います。契約形態や委託範囲の整理についても、お気軽にご相談ください。

本記事は一般的な情報提供であり、個別の契約については専門家にご相談ください。法令・告示・疑義応答集の内容は2026年10月23日時点で確認したものです。